パワークランクでのトラブル
❶ トルクをかける方向に滑る
❷ ワンウェイクラッチの破損
❸ ペダルアダプターのガタ
❹ キャップが開かなくなる
今回は、
❷ワンウェイクラッチの破損
めちゃくちゃ重いのにめちゃくちゃ高い(デュラエースより、スーパーレコードより高かった)power-cranks。
鈍なわたくしは、当時運用していた4台全部に装着して、ノーマルには乗らない!くらいの覚悟ぢゃないと身に付かんわい、と痛感。
しかし、さすがに3台目と4台目は中古品を探した。
今はほとんど出物がない(そもそもマニアックな機材、まして今は存在すら過去のもの?)が、当時海外にはそれなりに出物があったので、eBayから肉抜きの美しい旧型クラッチのを入手。
この上↑と下↓の2つ、172.5mmと170mmの違い、黄色味の違い、もあるけど、肉抜きも微妙に違うのだ。
そもそも、作ってから何年経っているのか、どのような使われ方をしてきたのか全く分からない。
そして、旧型は(左側↓)細かいローラーベアリングが3本タイプ。
170mmの方は、2012年にeBayで入手。
気に入っていた172.5mmの方は2013年2月末にeBayで入手。
その172.5mmのブツは、2019年9月末、右駆動側がギャンッと音を立てて正方向に回る。
次の日に前にも後ろにも動かなくなって、片足ペダリングで職場から帰還。
アメリカの本社に送って、クラッチを交換してもらった。
(コレが、数ヶ月経って送られてきたのはクラッチが逆につけられていて後ろ向きに駆動するという。。また送り返して数ヶ月後。)
帰ってきたクラッチ(右側↓)は、ローラーベアリングが大きめ1本ずつの、新型と同じタイプに変わっていた。
つい最近まで、わたくしはワンウェイクラッチの構造はよく分かっていなかった。
これが、結構物理的にとても原始的な構造なのだ。
power-cranksでは、↑のバネに当たるところは板バネで、旧型で見ると↓、3本のローラーベアリングの右側に左右から見えている。
正方向に回転させると板バネがローラーを押し上げる方向に力が働き、ローラーが軸中心に向かって盛り上がり、アダプター側に押さえつけられる。
後ろ向きに回転させると板バネが縮んでローラー収納スペースに余裕が生まれてローラーが下がって、アダプター側との間にほんの少し余裕が生まれ空転する。
この板バネは、コスト的にも反発力的にもスチールで作られているようで、注意深くメンテしていかないと錆びるのだ。
日本一周以外では、雨で走行することはほとんど無かったのだけど。
そして、2022年5月、日本一周中に、左側が逝った。
考えてみれば、輸入してから9年以上、使われてからは型から見て十数年は経っているわけで。
逝く前に、左側だけ外すとこんな感じで錆がアダプターについていた訳で。
↓ローラーベアリングを取っ払ってみた。ちなみに、左右についている小さいローラーベアリングは、そのハマっている枠のリングごと自由に回転する。
左右でアダプターに支えて安定させる役目を果たしているようだ。
日本一周中に、ヤフオクとメルカリから1つずつ中古を入手。
しかし、このかなりの値段した↑ヤフオクのやつの方は、新型タイプだったけど左側のクラッチがカクカクくる。
別の問題でSILKサイクル(絹自転車)の荒井マスターにpower-cranksの処置を依頼したとき、こういうワンウェイクラッチは工業汎用品だから、型番調べれば入手できるはず、と言われた。
で、型番であれこれ検索したら、日本でも2000円せずに入手できたのだ。
つまり、クラッチが壊れたらクラッチ自体の修理は不可能だけど、交換は出来るはずなのだ。
新型の大きい方は、型番HFL3530。
INAという会社のだった。made in Germany。
旧型の径の小さい方の「新型クラッチ」(ややこしい)は、型番HFL3030。
ちなみに、日本一周中に壊れた3本ローラータイプの方は、FCBで始まる型番で、NSK(日本精工)のだった。
検索すると、まだ入手可能のようだ。工業用として室内の機械等で使用するなら問題ないのだろうけど、屋外で、もしかしたら雨走行で使用するにはデリケートすぎるのだろう。
INAと同じ仕様にバージョンアップされたようで。↓
さて、入手したはいいが、ここからどうするか。
アメリカ本社では、クランクはそのままにクラッチだけ代わっていたので、当然、圧入処置に決まってる。
ここは、SILK cycle 絹自転車の荒井マスターに依頼するしかない。
こういうアブノーマルな工作には興味を抱いてくださるので、引き受けて下さった。
お預けして、数週間はかかるだろうと思っていたら、まさかの持って行ったその時に、もう取り組んでいただけたという。
↓当然、プレス機は必須だろう。これは50tまでかけられるという。
しかし、このHFL3530クラッチを抜くには、このクラッチの径より微妙に大きい穴の開いた土台↓と、、、
このクラッチの径より微妙に小さい上から押し込む円柱状のもの↓が必要。
あれこれ工場内を漁ると、power-cranks専用でないのに、うってつけのブツを見つけてきてしまうのが、マスターのマスターたる所以。
1mmでもズレると壊してしまうので、何度も四方から測ってセンター出し。
そして、ゴールドのクランクはアルミ、クラッチはスチール、という膨張率の違い(アルミの方が早く膨張して広がる)を利用して、バーナーであっためて抜く。
そんなにプレスをかけなくても、バーナーで熱しただけでかなり外れた模様。
ここが正方向に滑った記憶・感覚はないので、これでもしっかり精度が出ていてしっかり圧入されていたのだろう。
そして新しいのを圧入。
先ほど見つけた筒を使って、底面がツライチになるように慎重に圧入。
出来た!
今度は、旧型のHFL3030。
これは少し径が小さいので、先ほど使った土台と、上から押さえつける筒は、使えない。
ここでなら素材から削り出すこともできるだろうけど、そうすると時間も手間も工賃もえらくかさんでしまうので、何かないかとまた工場内を探したら、、、
あったのだ、押さえが効いて、微妙に径の小さな頑丈な筒が。
何と、スプロケットのフリーボディー。
下の土台は、先ほどのデカい鉄バームクーヘンでもいいのだけど、穴が少し大きくて、と、慎重に他の代用品を探す荒井マスター。
そして、何かの筒を探し出してきた。
この当てる面がしっかりフラットが出ていない、ということで、スライサー?で固定して面出し。
クランクに黒い線があるのは、油性マジックで書いて、バーナーで炙った時の温度を測るためだと。
油性マジックは約300度で消えるらしい。
これまた、消えるまで行かずとも(約100度くらいだろうと)、ほとんどプレス圧上げなくても、あっためたら抜けた。
そしてまだクランクが膨張している間に圧入。
もうゴムハンマーで叩いて入っちゃうくらい。
これじゃマズいんぢゃね?(こんなに簡単に入っちゃうんぢゃ!)ということだったけど、やはり最後はプレス機を使わないと入らないようで、一安心。
出来た!
ちなみに、相棒の山岸氏も手伝ってくださっての作業。
約1時間半。
職人のお仕事を間近で拝見できて、とても有意義だったのだったのだった。
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